ふらりと226事件首謀者の青年将校のひとり、磯部浅一の記念館に足を運んでみました。彼の出生地の田園に浮かぶ、まさに『ひっそりと』ある小さな小屋は、休日の夕暮れ時で誰の参詣者もなく、荒れた様子で鍵がかかっていました。硝子窓の外から、獄中から書いた磯部直筆の手紙と墨書が見えます。
そこには『神州不滅』『神風』と揮毫してあります。力強い筆致で、筆者の霊性が垣間見える良い書です。
戦場のメリークリスマスで坂本龍一の演じたキャプテン・ヨノイは、226の将校の生き残りであるという設定で描かれています。そして坂本龍一が書いた曲想には強烈に晩年の三島的な美学が映しだされていて、その晩年の三島的美学に強烈に影響を与えた一人が磯部の魂の純粋です。
その三島は右翼テロに殉じた生まれ変わりの青年を描いた『奔馬』にこう書いています。
『何故なんだ、何故なんだ』と勲は歯噛みをして思った。『人間にはどうしてもっとも美しい行為が許されていないんだ。醜い行為や、薄汚れた行為や、利のためにする行為ならいくらも許されているのに。
殺意の中にしか最高の道徳的なものがひそんでいないことが明らかな時、その殺意を罪とする法律が、あの無染の太陽、あの天皇の御名によって施行されているということは、(最高の道徳的なもの自体が最高の道徳的存在によって罰せられるということは、)一体誰がことさら仕組んだ矛盾だろうか。これこそは精巧な『不忠』が、手間暇かけて作り上げた涜神の機構ではないだろうか。
〜中略〜
法律とは、人生を一瞬の詩に変えてしまおうとする欲求を、不断に妨げている何ものかの集積だ。血しぶきを以て描く一行の詩と、人生を引き換えにすることを万人にゆるすのはたしかに穏当ではない。しかし内に雄心を持たぬ大多数の人は、そんな欲求を少しも知らないで人生を送るのだ。だとすれば、法律とは、本来ごく少数者のためのものなのだ。ごく少数の異常な純粋、この世の規矩を外れた熱誠、…それを泥棒や痴情の犯罪と全く同等の『悪』へとおとしめようとする機構なのだ。その巧妙な罠へ俺は落ちた。他ならぬ誰かの裏切りによって!
ここで主人公の青年に語らせた言葉は、それはまるでそのまま獄中の磯部の心中です。
また戦メリの美しいラストシーンでタケシ演ずるハラ軍曹に語らせるのも、同じ命題です。どうしてもわからない、と。
非常に複雑な命題。人間存在や、魂の純粋や、善や、悪や、正義や、不義や…、要するに『存在の矛盾』についての命題です。
ともあれ、戦メリの曲想に感ずるところある方は、現代の戦後日本からはほど遠い魂の純粋に思いを馳せてもらいたい、…と思います。それこそあの楽曲のイマジネーションの原型なのだから…。
青空の広がる田園風景。磯部が生まれた頃はたぶん遠景の宅地も電柱すらも無い、ずっと広がる田園と青空の風景だったことでしょう。白い鷺が聖性の御使いのように一羽ぽつんといます。
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来週10/4(mon)にcafe de dadaにて、amos garrett とgeoff muldaurのライブがあります。それぞれ単独ではdadaで鑑賞しましたが、2人のセットはおそらく最初で最後(?)でありましょう。しかしこんな小さな街のライブハウスでゆったりと静かに聴けるなんて、なんて贅沢な…。
もともとpaul butterfieldのバンドでそれぞれvo,gtを担当したのですが、キャリアとしてはamosは数々のレコーディングセッションやツアーにギターリストとして参加、geoffはどちらかというとプロデューサーとしてドラマ等劇伴の音楽制作などでエミー賞なども受賞している、というそれぞれ違うタイプの活動を重ねています。でも2人セットだと、やはりbetter daysの楽曲を期待しますね…。
さすがにチケット料金が少し高いのですが、ノスタルジーに浸るおじさん達よりも、むしろ音楽を志してる若い人などに特に生で聴いてもらいものです。この世代の生演奏を日本で(しかも地方都市で)聴けることは、もうないだろうからね…。
その音楽を知らない人の為に、youtubeから選んでみました。
Gee, Baby, Ain't I Been Good To You/Geoff Muldaur
http://www.youtube.com/watch?v=7pDOuwLOc9c&feature=related
Hong Kong Blues/Amos Garrett
http://www.youtube.com/watch?v=SybqrTR3HMk&feature=related
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