2017年09月18日

Twin Peaks The Return



※ネタバレ、解説、あらすじ、などの謎解き記事ではありません。この記事は真のツイン・ピークス・ファン、及びD.リンチのコアなファンの方だけ、どうぞお読みください。



 …一気に全部観た…。。特に圧巻は8話と17話だ。

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 リアル天才の境地の最後の円熟を観た。…という興奮が納まらぬ。

 全18話見終わった後のこの余韻、感動は、通常の映画体験では得られぬ種類の深さである。

 私の感想を唯一言で言うなら、これはD.リンチの全ての作品の総括、自身による自身の作品群へのオマージュ、というべき映像作品です。



 私の心底好きなD.リンチとは一体何なのか?

 彼の本質は、1930年代に詩人A.ブルトンによって提唱されたシュールレアリスム・アートの正統かつ忠実な継承者である。その当時、油彩の平面画で多く発表された世界中の良質なあの波を、映像バージョンでど真ん中を行く、それこそがD.リンチだ。

 このツインピークスの完成版、というべき映像を観て感じるのは、あの30年代頃に有名無名を問わず世界中で数多く制作された、抽象画を鑑賞する気持ち良さと、完全に同質なのである。
 

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 もともとは映画監督ではなく油彩をやっていたD.リンチは、本来ファイン・アートの部類に入るアーティストで、そういうポピュラリティーとは真反対の質の人が、TVドラマで革新的な世界を創って何故か大ヒットした、というのが初代ツインピークス現象で、それは社会現象ですらあった。



 しかし実際、初代ツインピークス後半では、貧弱な当時のアメリカのTV局側とだんだん折り合わなくなり、初期の質を失って失速して終わり、その後に創ったコメディーのTV番組も、途中で打ち切り(私はその内容、成り行き自体に寧ろ好感を持ってバカ受けしましたがw)、という憂き目にあっている。


 思えば、彼は常に大衆メディア側の卑俗な軋轢と、ずっと戦い続けた本物の気骨あるアーティスト。




 で…、今回のツインピークスはもの凄い。一切、妥協無し。彼が本当にやりたいことを全部やってしまっている。

 これをTVで放映しているところが驚きである。

 あのNYのカルトムービー専門深夜映画館で密やかな大ヒットをしていた頃と完全に同質なもの、それをTVドラマに結実させている。この現象はまるで芸術的奇蹟だ。

 こんな事が出来てしまうのは、世界で唯一この人だけだと思う。

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 昨今のアメリカのTV番組はJJエイブラムス監督を中心に非常に良質だけど、その下地はやはりリンチが創ったものであり、近年の複雑系ドラマの元ネタこそ、初代ツインピークス、およびD.リンチなのだ。

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 リンチ本人は、益々その手法に磨きをかけて進化し続け、ロスト・ハイウェイ、マルホランド・ドライブ、インランド・エンパイア、など抽象的かつ非常に実験的な作品を、近年まで発表し続けている。

 
 彼の原点とも言えるインディペンド自主制作のデビュー作、イレイサー・ヘッドは、それら後年の作品群の頂点に最初から君臨しており、今回のツインピークスでも存分にその映像手腕(本当に同じセットではないのか??)、手法、世界観が投入されている。



 今は亡き巨匠、S・キューブリックも、イレイサー・ヘッドは大好きだったらしいが、この二大巨匠の比較はここでは敢えて置いておこう。

 

 また、実はスターウォーズの監督も依頼されていて、断った経緯もあるけれど、これは蹴って正解だったと思う。しかしリンチのあの意識の深い世界を汲み取る才能を、やはりルーカスは見逃してなかった事に注目すべきだろう。

 その替わりに制作した、まぁファンとしては微妙な出来映えのデューン-砂の惑星も、今回のクーパー役カイル・マクラクランの映像にオヴァー・ラップさせてあるところが実に多い。

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 そして何よりも、初代ツインピークスでは誰か解らないテープレコーダーの主ダイアンが、ブルーベルベッドの恋人役のローラ・ダーンが演じるあたりは、もうファン泣かせとしか言えぬツボである。

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 ブルーベルベッドは、そこかしこに挿入されている。オリジナル版ではいまいち謎だった、ブルーローズ(やはりブルーベルベッドの匂い薫る。自然界に存在しない”青い薔薇”とは"奇蹟"の暗喩である)というコードネームの秘密捜査の全貌も、リンチ本人が扮するFBI捜査官ゴードンの口からやっと明かされる。

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 また撮影中に逝去された、丸太おばさん(Log lady=“情報の読み手”の寓意)が、実際にドラマの中で、亡くなってゆく台詞を電話で語るシーンは、もう涙もので、ツインピークス・ファンなら25年の歳月、自分の人生、などをしみじみと、あの不思議なおばさんに重ねてしまう。

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 そして、最後に、クーパーによってローラの魂は救済される。現実を変えてしまった異次元のクーパーとローラは、意識から眺めると、まるで夢の様なこの現実世界に、まるで我々の現実の様に重ね合わせられ、大円団を結ぶ。しかし、置き去りにされたこの続編は、きっと可能であろう。そこに”真の救済”を感じた。



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 総括するなら、これはツイン・ピークス・リターンではない。デヴィッド・リンチ・グレートワークス・リターンなのだ。

 超現実を見抜く天使の目を持つ鬼才、その精神の世界を映像化したファインアートの世界。グロくて、エロくて、気持ち悪くて、そしてそれら全てが超絶に美的である。


 世界中、全てのリンチ・ファンよ、心して観よ。きっとあなたの人生のかけがえの無い全てのシーンや記憶がこの作品に必ずオーヴァーラップするから…



posted by サロドラ at 07:07| 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月06日

ノルウェイの森 村上春樹著 第59回ORPHEUS読書会 30周年記念前夜祭 youtube







 ちょうど読書会のこの日に、発売されて30年を迎えるこの作品『ノルウェイの森』を議題にしました。思えば太宰が人間失格を書いた年齢と、春樹自身もほぼ同じ年齢で書かれた作品です。それは作家としてあるピークを迎える年齢なのかも知れない。

 もちろん春樹はその後も大作を書き続け、それも絶大な支持を世界で獲得し続けている凄い作家ですが、私の中の春樹は、やはりこのノルウェイの森を絶頂とする初期から全ての作品です。この作品で、彼の中の何かが終わってしまった気がする。詳しくは映像中にありますので、どうぞご覧ください。


 この作中主人公と同じ年齢の頃に、まるで自分自身の『現実の物語り』の様に感じながら息が詰まる様な気持ちでこの作品を読みましたが、今の自分が読んでも、この作品により深く強い感銘を受けます。

 そしてオルフェウスという名前の私達の読書会に、これほど相応しい作品は無いのではないか?と思います。この物語は70年前後の東京のとある寓話‥それはまるで現代の神話です。


 また、music societyにとっても私個人にとっても、このタイミングほどこの作品への相応しさはありますまい。


 なぜかメイン映像が録画を失敗してしまい、ustream動画を編集したので画面が粗いですが、客観的に観ても内容の良い読書会だと思います。どうぞお楽しみください。



 20世紀の日本で生まれた文学作品の中で、もっとも美しい作品のひとつ

 ノルウェイの森30歳のバースデイ、そして多くの祭り-Fête-のために乾杯!


posted by サロドラ at 06:09| 文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする