2022年02月21日

Pat Metheny 〜Dream of Synclavier〜



 Larry Carltonについて徒然に綴って、なんか違和感のある記事でオフった…。

 さて、本当に記すべきは誰だろう?と思い、まず浮かんだのがメセニー。

 この20年くらいメセニーの音楽、ギターを全く聴いていない。けれど彼ほどワタシに影響を深く残していったギター弾きは他にいない…のかも知れない。。

 今、それらを表面的に追う事はワタシにとってあり得ないのだけど、潜在的に自分に強烈に色濃く残っている。

 彼について一体何を書けばいいのか、よくわからない。

 無知だからではなく、知り過ぎていて、、。


 いつもの事だけど一番重要な技術的核心はネット上には絶対に記さない。


 ここに記す機材自体ではなく、彼のあの音楽を実現させた真の核心は勿論、彼の手、右手にある。



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 初めてその音楽を耳にした日の事を今でも凄くよく憶えている。

 高校生当時、FMで流れるジャズ系ライブ音源は重要な音楽テキストで、国内外問わず必ずチェックしていた。

 ある日、メセニーグループの日本公演、中野サンプラザでのコンサート収録の一部がNHK FMで流れたまたま録音していた。

 おそらくそれはコンサート全演目の抜粋で、ラジオから流れた一曲目は『Frist cricle』だった。



 聴いていて、なんだこりゃ???…と、まったく初めて聴く音楽世界に不思議な気分になったものだ。

 変拍子の手拍子で始めるこの曲は、"シンクラヴィア"という今で言うサンプラー搭載のシンセと同期演奏される曲なのだけど、一体どの音がシンセ音源で、人間が演奏している音がどれなのか、聴いていて全く判別がつかない程、有機的な音、演奏だった。


 それから3、4年後、実際に中野サンプラザホールでステージ目の前で生で聴いたのだけど、生で聴いて、生で観ていても、やはりどうやって演奏しているのか全くよくわからなった。

 クリック音などドンカマ等をヘッドフォンなどでモニターしてる様子も無く、いきなりカウント無しの手拍子から始まって、自然に背後にオーケストレーションが流れるのを観て、強いショックを受けたものだった。


 後年、この不思議さのすべての内訳を解き明かしていく作業に入るのだけど、この時点では何かあまりに遠い、雲に包まれた中空に浮かぶヨーロッパ風な古城を眺める気分だった。



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 シンクラヴィアという楽器は、巨大な家具みたいな大型コンピューターが心臓部で、まだGUIが無い時代のPCモニターをインターフェースとし、そのサンプリング音は限りなく自然、ハイファイな音で、価格もハイエンドそのもの1000万円以上。とても高校生なんかのアマチュアミュージシャンが手を出せる代物ではない。


 (ちなみに日本でこのシンクラヴィアの所有者は、小室哲哉と、渋谷にある本社NHKスタジオと、なぜか加山雄三だった)


 小室哲哉がTMネットワークでそれを演奏しているのを生で観たが、特にシンクラヴィアらしさ、というか他のデジタルシンセとの違いを感じなかった。またNHKの場合は、おそらく番組制作、ドラマ劇伴など主に効果音制作に使用していた、と思われる。(加山雄三に至っては謎極まりない… ”若大将シリーズ”をシンクラヴィアで演奏するつもり、だったのか???)


 とにかくシンクラヴィア実物は日本に於いて、このたった3台のみだった。








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 当時、その種の楽器類の状況は、AKAIがサンプラーを出していて、後年それはHip hop系のトラックを創る名器に変貌し始めるのだけど、まだパッドも無いラック搭載の機種で、メモリーも数bitしかないが、それでもそれはかなり凄い機材で、ギター弾きでは渡辺香津美氏が自身のラックシステムに搭載し、Rolandのギターシンセを介してコントロールしていた。そのラックシステムでもやはり1000万円クラスの目も眩むシステムだったが、ライブを生で聴いていても、即興で操るそれらの音色の多様性にとにかくびっくりしたものだった。


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 さて、メセニー、、、である。


 彼の音は、上記の日本のミュージシャン、世界のギターシンセ弾き(ロック系からジャズ系まで沢山居て、皆、ギターの可能性、音楽の可能性の拡張を目指していた)の中で、最も異質かつ、最も非機械的、まるでアコースティック楽器の様に、それらのマシンを音楽的に深く使いこなしていた唯一無比の人物だった。


 最初に聴いた『Frist circle』に驚いた理由は、それだった。


 最先端のコンピューター制御によるデジタルシンセを、まるでアコースティックな、まるで生オーケストラが奏でている様な、柔らかく、自然で、極有機的な復層オーケスレーション音を、たったの数人で生演奏していた、のである。


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 当時流行の同期演奏ものは、いかにも『The 同期演奏』な、カッチカッチな音色とタイム感で、強く押しつけがましく、ダイナミズムはフルレンジから一向に変化しない、なんの音楽的抑揚も無い、つまらない機械的演奏ばかりだったのである。


 そういう音楽への反発から、普通にバンドをやるアナログ回帰ミュージシャンも多かったし、また逆にその反発から90年代以降のテクノも生まれた。


 それは反YMO、反クラフトワーク、といった趣の、まるでバンドが生演奏する様なかっちょいいテクノだったが、その代表格はデザインワーク集団"tomato"を率いていたunderworldだが、とにかく有象無象、筍状態で良い音楽が産まれた時代だった気がする。



 それはPCのクロック周波数の高速化と、安価なサンプラーの普及によって産まれたムーブメントであった事は間違い無い。

 こうしたムーブメントは皮肉にもfusion、jazzrock系の音楽を"ダサい音楽"として駆逐する爆発的な力を発揮し始めた。(ワタシがメセニー音源を聴くことがなくなったのもこの時期からだ。)



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 現在でもメセニーのトレードマークは、最初期型GR-300だけど、あんな風に使用したミュージシャンは他に誰もいない。当時皆があれをレコーディング等で使用していたのに、である。

 
 マシン、機材との向き合い方、というワタシの流儀、姿勢の全ては彼からの影響なのかも知れない。


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 そのツールから何が引き出せるか?が最も大切なのであって、時代の流れに唯盲目的な追従をして機材アップデートするのもミュージシャンとしての卓越を邪魔する、という事など、彼から学んだ事はあまりに多過ぎて計り知れない。



 現在ワタシのやってる事は、全く別の方向、別の追求による、同種類の事、なのかも知れず、だからこそ聴くのも触れるのも無意識に遠ざけている、のかも知れない…。


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 最近偶然、APPLE MUSICを試していて、未発表の80年代後半のライブ音源のリマスターを聴いた。

 やはり、深く感銘を受けた…。。。

 

 サウンドの核を描いていたLyle mays亡き後、この音楽はもう既に再現性を持っていない。

 


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 ちなみに、あの巨大で高価なシンクラヴィアと同じ機能、いや、それを遥か遠く超える機能、クロック周波数、メモリー、OS、を今、我々が普通に使用しているポケットの中の小さなiphoneは見事に内蔵している。



posted by サロドラ at 21:21| 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする