ひどく気持ちの悪い夢を見て目が覚めた。するとDavid Lynchの訃報が目に入った。
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天才の死は、その作品と同じくらい暗喩的だ。
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このblogにも幾度も書いているDavid Lynch。
彼の作品との出逢いは、最初に世界発信された作品『エレファント・マン』。
作品自体は障害を負った男の物語り、というヒューマニズム作品、な筈なのに、その印象はただのヒューマニズム礼賛とは、何かまるで違う、何か別の何事か、を濃厚に宿している作品である。
確か学校の夏休みで、従兄弟が泊まりに来ていて、一緒に映画館に観に行った。
しかし、、、映画以前に、街を歩くとそこらの電柱に貼ってある、このポスター。

これが、もう何か得体の知れない気味悪さで、夕暮れ時に、学校の帰り道で、このポスターに出会うと、なんとも言えない気分、空気が漂う。
この当時、ホラー映画全盛の時代で、サスペリア、オーメン、などめじろ押しだったのだけど、そうしたホラー映画のポスターよりも、遥かに不気味である。
そして、その不気味さは、ただ怖い、だけではない、色々な濃厚なエッセンスが凝縮して背後に漂う、とても言葉では形容できない何事か、なのである。
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映画を見終わった従兄弟は、怖い映画かと思ったら可哀想な映画だった、と、子供らしい感想を述べていたが、自分が感じたこの映画の鑑賞後の感覚は、あのポスターで感じるよりも、また一層、言葉で完結させるのが異常に難しい、一言では言えない、感覚のオーケストラ、とでも言える複雑妙味な世界だった。
しかし、その時、David Lynchという名前は自分の脳内に刻まれていない。
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それから何年も経て、全米で大ヒットして日本に入ってきた米ドラマ『Twin peaks』。
これが二度目のDavid Lynch。
これがもう物凄い社会現象ですらあったのだけど、レンタルビデオのお店に行くと(まだVHSビデオテープの時代)ずらり、と並んだTwin Peaksは常に貸し出し中で、借りるのが難しかった。
その頃に、その流行の波を受けてTVで『Blue Velvet』を放映した。
それを眺め、これは………………、と子供の頃に見て得体の知れない感情を残して行ったあの映画と、この作品監督のDavid Lynchの名前がやっと一致。
当時の自分は、流行りもののハリウッド映画は大嫌いで、カルトムービーばかりを熱心に渉猟し、貪るように鑑賞していた。
そう、あった。そこに、あった。 ホドロフスキー、ジョン・ウォーターズ、などに並んで、一際やはり不気味さを放つこれ。

リンチの処女作にして、やはり最高傑作。(これは本人も認めるところ、だ)
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とにかく、濃縮型のこの世界は強烈で、一切の手加減、無し。観客に媚びるところが皆無。
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この処女作は完全自主制作で、途中で資金も途絶え、セットや美術、特殊効果は、ほぼほぼ本人の手作業による手作りで、チープなのにも関わらず、その映像効果は、どんなにカネをかけた映画もかなわない、というほど。
2001年〜、時計仕掛け〜、で著名なあのキューブリックも、この作品を独り眺めてニンマリしていた、という有名な逸話も。
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数々のドス黒い、暗黒な美を生み出したリンチであるが、やはり世界中の多くの人に記憶されるのは、やはりTwin Peaks、なのではないか。
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このTwin Peaks。 あらましで言うと、単に女子高生が殺害され犯人探しをするだけの話なのだけど、これがまたリンチらしく、本当の世界観は、それとはまるで別のところに有る。
このドラマは90年代という時代の扉を開けたドラマ、だと思う。
売春する女子高生、10代のドラッグ、不倫、近親相姦、子殺し、あの滅茶苦茶な90年代、という時代、まるでギリシア神話の”パンドラの箱”を開けたような、そんな空気感がこのドラマにはすべて満載で、過剰な空想ではなく、異常にリアルな世界の集合無意識の真相を描いている。
そして、それは2025年の今にまでずっと響き続けている。
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Twin Peaksは、物語りの冒頭、片田舎の製材所の風景から始まる。
そして、田舎の森を開発する悪徳業者のホテルオーナーが、北欧からやってきた田舎者にそれを売りつけ、大儲けしようと画策するシーンから始まる。
そう、実はこの物語りの中心核には、環境問題のテーマがPedal toneのように底部でずっと響いている。
そして、その森には太古からの秘密があり、その秘密がこの物語り全体の核である。
太古の森に潜む霊界からの逆襲。環境を傷つける人間の傲慢への警鐘、太古の森で怪しげな乱行を繰り返す人間の、おそらくそれは日本の古代の祭りのような、この世とあの世の境界たる世界、その中間に潜むエロスと死…
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これがTVドラマで、しかも全世界で流行ったところが、驚きではある。
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今年の1月7日から始まったロサンゼルスの特大火災(もはや戦争か、テロだ!)は、今、この時点でまだ鎮火してない。
気になって被災地図を調べると、リンチの映画にも数々登場するロケ地、作品タイトルにもなった丘陵地の路、などほぼ丸焼け、である。
ロサンゼルスを覆う燃える火は止まる勢いを知らない。
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リンチの作品姿勢には、ハリウッド映画界への抵抗と批判がいつも込められているが、人間の所業、悪業への批判、文明批判が、常に散りばめられている。
Twin Peaksの女子高生は、その文明に飲み込まれた被害者であり、その文明とは、重火器により人間が人間を大量殺戮する巨大な悪業の因果が、悪霊の姿を象徴として描かれている。
不気味な悪霊を見て、何か逆にホッとするところすら、たまに感じるのは、人間の奢りへの強烈な反逆を無意識に描いたリンチの、寧ろ神的なる善意、神意、神威が密かに姿を変えたもの、だからなのである。
が、故に、必ず"天使"による救済が必ずいつでもラストで描かれる。
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ロサンゼルスという名は、スペイン語で、The angelsの意味。
そして、Twin Peaksの副題は『Fire walk with me ー 火よ、ともに歩め』‥‥‥‥‥‥‥‥
燃え盛るHollywoodの火とともに旅立つ。それはまさにあの天才の最期に相応しい…
Rest in peace & Relax in red room,A GENIUS with ANGEL EYES!!!