この季節、入学、卒業、など何かと祝い事、謝礼、他、熨斗袋を書く事も世間様世界では多いと思います。
普段、音楽であれ、書であれ、授業で講義する内容をblogに書く事を私はほとんどしませんが、
今日は一つだけここをお読みの皆さんにだけ伝授します。 しかし、最初にお断りしておかなくてはならないのは、ここで画像で見るのと、実物を肉眼で生で見るとは全く違う、という点です。ですから、あくまで写真画像は参考程度だと思ってください。
さて普段の熨斗袋などを書く時、まぁ良くて簡便な筆ペンなどを使用して書く方も多い事かと思います。
しかし、結論、筆ペンの文字はどんなに字を上手に書いたとしても、何処か安っぽ〜い質感になってしまいます。
その原因は、墨色にあります。 まず、この線。これは筆ペンの線の色です(すみません、少しピントがぼやけてますね…)。

で、筆ペンで書いた文字の色はこんな感じ。

これは要するに「墨に似た黒インク」の色です。まぁ化学薬品に近い黒い液体、という感じです。
…別にこれで良いじゃない?と思う方も居るかもしれないけれど、、、お手数ながらどうぞ、最後までお読みください。
では次、これは「お習字」でよく使う汎用の墨液の線です。

で、墨液の文字はこんな感じ。

黒インクよりは、まぁ墨に近い。
上の筆ペンの線と比べると、遥かに「書」っていう立派な雰囲気はより出ます。
けれど、実は汎用の墨液もインクと大して変わらない、化学薬品的な添加物バリバリの液体です。
普段の教室の授業など、全国的にもこの状態で練習してる所がきっと大半でしょう(毎回、摺ると時間がかかるので…)。
では本物の墨を水から摺った線。

解り易くする為に、わざと薄墨にしました。
どうですか? たった一つの線の中にも、濃淡、色合いが和紙の上で、大きな変化をしているのが解るでしょうか?
この線の中での色、質感の不均一性こそ、書の表現の中で最重要なものです。
筆の緩急、筆使い、で色合と線のシルエットを自在にコントロールする事が可能になります。
2次元平面である筈の表現を3D立体にする事も可能です。
本来の良い書作品は、この「立体性」と「線の歌い方」「文字の造形的意味」に実はあります。

これは、エレキギター(特に歪み系)で言うギタートーンと全く同じ。
エレキギター弾きは、結局、真空管アンプに一生拘る羽目になるのですが、このトーンの不均一性こそが、深い心の世界、感じ方、などエモーションの繊細な表現を実現する、表現上の最重要ファクターだからです。
シュミレーターや、エフェクターではこの質感は絶対に出せない。それは表面が似てても、根本が全く非なるものです。手先の技巧上、どんなに巧く弾いても、ど下手が弾いても、全然、同じ、のっぺら〜〜とした音(笑)。
更にこれを簡単に音楽と食べ物に、もしも例えるとすると、、、
a 筆ペン=アンプシュミレーター=インスタントラーメン
b 墨液&筆=ソリッドステートアンプ(JCなど)&ブースター系エフェクト=添加物入りラーメン
c 本物の墨&筆=真空管アンプ直音=ギミック無しの無化調の本物のラーメン
………ってな感じです(笑)。
cの状態は、手間もコストもかかる。しかも手先の繊細な技術も全部出るから、より難しい。。とっても、難しい。
でも、決して上手でなくても、充分、面白いもの、良いもの、自然な美味しいもの、にはなります。
またそういう状態に慣れる人ほど、手先の技術も必ず巧く成ります。
bの状態は、まるで平板な、ノッペリと紙に文字がただ張り付いた様な、味気なさがあります。
しかし、これが全国のほとんどの多層勢でしょう。
一瞬、騙されて美味しいかも知れないが、そんなものを毎日喰ったら病気になるでしょうなぁ、って感じのもの。
それは本来、不均一な人間の深い心の世界を表現するには、もう何か程遠い…。
でも残念ながら、そういう平板さ、均一さに、多くの人は飼い慣らされてる事が昨今多いので、まぁこれでいいじゃん、って人も、現実はさぞ多いでしょう。。。が、、、、、
そういう人は、己の自然な心の不均一さと、生活を取り囲む身の回りの、簡便かつ無理で不自然な平板さに、自分でも知らぬうちギャップが生じていて、自分の不快感や苛つきの、真の発生場所が自分で見えない、という事が多い、という気が私はします…。
で、いわんや、aの状態は、完全に偽物な上、まるで表面で嘘を付いた様な、味気ない…、と言うよりも、ほとんど危険レベルの物体ですが、これは、もしもb,cの状態を体験的に知らない方からすれば、「なんか問題あんの?」なんてのが、現実では無いかなぁと思います。
えぇ、そうです、便利で簡便な様ですけど、こりゃ本質的に問題が大ありです。
で、
今日の結論。
字が別に上手でなくても良いし、書道も習字も習った事も無い、という方でも、『ものは試し』で、100円ショップとか売ってる安いもので良いので、試しに墨を水からきちんと摺って筆で熨斗袋を実際に書いてみてください。
決して上手な字でなくても、驚く程、ゴージャスな雰囲気の物体になります。
手間と言っても、熨斗袋を書く程度の墨の分量を摺るのは、1分間もかかりはしません。
その際、注意するのは安物の墨は、墨色が薄いので、濃くなる様に強めに摺る事です。
要は、書く人の「真心」「誠実さ」の問題です。そして、人間的な有機性、という感触が強く出るのです。
自分は字が下手だなって人でも、下手成りの、何か「味」のある感じにもなるし、もしも字が上手な方なら、こりゃ立派!って感じに成ります。
結局、気持ちや、心、が伝わる。
これが一番大事。
経験の無い方も、ぜひお試しください。